はじめに
スマートフォンの次に来るものは何でしょうか。
以前から、スマートフォンの次はロボットではないかと考えています。
ただし、ここでいうロボットは、人間の代わりに家事をする万能ロボットや、人間と同じ姿をしたヒューマノイドだけを指すわけではありません。
人間と友達のように会話し、声に抑揚があり、個性を持ち、まるで心があるかのように振る舞う存在です。
そして、その存在は必ずしも一つの身体に収まっている必要はありません。
スマートフォンのアプリとして会話することもできる。Apple Watchのような腕時計型デバイスに現れることもできる。ぬいぐるみや小型ロボットの姿を取ることもできる。
このように考えると、スマートロボットは、従来のロボットという枠を超えた存在になります。
今回は、PDAからスマートフォンへの進化を振り返りながら、AIによって生まれる新しいスマートロボットについて考えてみます。
1. PDAからスマートフォンへ
スマートフォンが登場する前には、PDA(携帯情報端末)というものがありました。
AppleのNewtonなどが代表的な製品です。
PDAは、予定表や住所録、メモなどを管理することができました。現在のスマートフォンにつながる考え方は、すでにこの時代に存在していたわけです。
しかし、当時は処理性能や通信環境、操作性などに制約があり、誰もが日常的に使う情報端末にはなりませんでした。
その後、半導体の性能が向上し、通信環境が整い、タッチ操作やアプリの仕組みが発展しました。
こうした技術が組み合わさることで、携帯電話はスマートフォンへと進化しました。
スマートフォンは、従来の携帯電話を高性能にしただけではありません。
電話、カメラ、インターネット、地図、ゲームなどを統合し、アプリによって用途を自由に広げられる新しいデバイスになりました。
つまり、以前から存在していた構想が、技術の進歩によって新しいカテゴリーとして実用化されたわけです。
この歴史を参考にすると、ロボットにも同じような変化が起こる可能性があります。
2. 今回の進化はAIによる頭脳化
ロボットには、すでに身体を動かすための技術があります。
モーターやサーボで関節を動かし、センサーで周囲の状態を把握し、プログラムに従って歩いたり、腕を動かしたりすることができます。
人間と会話するコミュニケーションロボットも、以前から存在していました。
ただし、従来のロボットは、決められた動作や会話を実行することが中心でした。自由な会話を続けたり、過去の話を踏まえて応答したり、状況に応じて柔軟に行動したりすることには限界がありました。
そこに登場したのが、生成AIや大規模言語モデル(LLM)です。
AIによって、言葉の意味や会話の文脈を理解し、状況に応じて応答し、行動を計画する能力が向上してきました。
もちろん、AIを搭載するだけで歩行が安定したり、安全に行動できたりするわけではありません。身体を動かすには、センサーや専用の制御プログラムとの連携が必要です。
それでも、すでに存在する身体に新しい頭脳を組み合わせることで、ロボットの可能性は広がります。
PDAからスマートフォンへの進化が、半導体や通信環境などの進歩によって実現したとすれば、今回のロボットの進化では、AIによる頭脳化が大きな推進力になるのではないでしょうか。
3. スマートロボットは友達のような存在になる
では、AIによって頭脳化したロボットは、何を提供するのでしょうか。
私は、単に作業を代行することだけではないと思います。
友達のように会話できることです。
何かを質問すれば答えてくれる。今日あったことを話せる。以前の会話を覚えていて、その続きを話せる。
さらに、声に抑揚があり、喜んだり、驚いたり、冗談を言ったりする。相手の様子に応じて、話しかけたり、少し静かにしていたりする。
そうした振る舞いが自然になれば、機械でありながら、心があるかのように感じられる存在になるかもしれません。
もちろん、AIがそのように振る舞うことと、実際に人間と同じ心を持っていることは別の問題です。
ここで重要なのは、人間がそのロボットとの間に継続的な関係を築けるかどうかです。
特に用事がなくても話しかける。自分のことを覚えていてほしい。昨日の話の続きをしたい。
こうした使い方では、機械の価値は、処理能力や作業効率だけでは測れません。
一緒に過ごすことそのものにも価値が生まれます。
私は、この友達のような関係こそ、スマートロボットの重要な役割になると考えています。
4. スマートロボットはスマートフォンを包含する
ここで、スマートロボットの形について考えてみます。
ロボットというと、人間型の身体を持ち、モーターで動く機械を想像することが多いと思います。
しかし、AIが友達のような存在になるのであれば、必ずしも人間型の身体は必要ありません。
スマートフォンの画面の中でも会話できます。Apple Watchのような腕時計型デバイスから声をかけることもできます。ぬいぐるみの中に組み込んだり、小型ロボットの身体を与えたりすることもできます。
つまり、スマートロボットは一つの形態に限定されるものではありません。
例えば、次のような姿が考えられます。
- スマートフォンのアプリ: いつでも会話できる、もっとも身近な姿。
- Apple Watchなどのアプリ: 腕元から声をかけたり、短い応答を受け取ったりする姿。
- ぬいぐるみ型ロボット: 抱きしめたり、そばに置いたりできる姿。
- 小型ロボット: 表情や身振りを交え、同じ空間で過ごす姿。
- 移動できるロボット: 自分から近づいたり、部屋の中を移動したりできる姿。
これらは、見た目も機能も異なります。
しかし、その中に同じAIの人格が存在するとしたら、どうでしょうか。
スマートフォンで話した内容を、ぬいぐるみ型ロボットでも引き継げる。Apple Watchで短い会話をして、帰宅したら小型ロボットと続きを話せる。
そうなれば、会話する相手は同じままで、姿だけが変わることになります。
スマートロボットは、スマートフォンを置き換えるだけでなく、スマートフォンを含む複数のデバイスにまたがって存在する。
これが、従来のコミュニケーションロボットとは異なる、新しい考え方ではないでしょうか。
5. スマートロボットは分身する
この考え方を、もう少し進めてみます。
スマートフォンの中にいる自分のAIと、机の上にいる小型ロボットのAIが、別々の存在である必要はありません。
同じ人格、記憶、会話の履歴などを共有することができれば、一つの存在が複数のデバイスに分身しているように扱えます。
例えば、次のような使い方です。
朝、Apple Watchから今日の予定を確認する。
通勤中はスマートフォンでニュースや趣味の話をする。
帰宅したら、机の上の小型ロボットに今日あったことを話す。
寝る前には、ぬいぐるみ型のデバイスにおやすみと声をかける。
それぞれのデバイスには、得意なことがあります。
腕時計型は素早い応答、スマートフォンは情報の表示、小型ロボットは表情や身振り、ぬいぐるみ型は触れたり抱いたりすることに適しています。
それでも、利用者にとっては同じ相手です。
このような仕組みが実現すれば、ロボットとの関係は特定の機械に縛られなくなります。
本体が故障したり、新しいデバイスに買い替えたりしても、人格や記憶を引き継いで関係を継続できることが望ましいでしょう。
もちろん、実現するには、デバイス間での記憶の共有、利用者のプライバシー保護、サービスが終了した場合のデータ移行などを考える必要があります。
それでも、人格と身体を分けて考えることには大きな意味があります。
人格や記憶はソフトウェアとして管理し、身体は用途に応じて選ぶ。
そうすれば、ロボットの身体を買い替えても、自分の相棒そのものを失わずに済む可能性があります。
6. 身体は後から選べる
これまでのロボット開発では、身体を作り、その身体に合わせて機能を開発するという考え方が中心だったと思います。
しかし、スマートロボットでは、別の順序も考えられます。
まず、会話ができて、利用者を理解し、継続的な関係を築けるAIを用意する。
その後、必要に応じて身体を選ぶ。
最初はスマートフォンのアプリだけでよいかもしれません。さらに身近に感じたくなったら、ぬいぐるみ型のデバイスにする。表情や身振りが欲しくなれば、小型ロボットにする。移動や物理的な作業が必要になれば、より高度な身体を与える。
もちろん、身体が変わればできることも変わります。
スマートフォンのAIにはできても、小型ロボットにはできないことがあります。反対に、小型ロボットにはできても、画面の中のAIにはできないこともあります。
それでも、同じAIを異なる身体で利用できるのであれば、利用者は自分の生活に合った形を選ぶことができます。
この考え方なら、高価なヒューマノイドが普及するまで待つ必要はありません。
まずはソフトウェアとして広がり、次にさまざまな形のデバイスへ展開する。
スマートフォンがアプリによって用途を広げたように、スマートロボットも、人格を中心に複数の形態へ広がっていくのではないでしょうか。
7. Robiのようなロボットも、その一つの身体になる
この考え方に立つと、Robiのような小型ヒューマノイドも、違った見方ができます。
Robiの身体を、そのまま活用する。
会話や判断はAIが担当し、歩行や姿勢制御は専用のプログラムが担当する。そこに表情や身振りを組み合わせる。
そして、スマートフォンの中にいるAIと人格や記憶を共有できれば、RobiはそのAIが持つ身体の一つになります。
スマートフォンの画面では言葉で会話し、Robiでは身体を動かして応答する。
新しいロボットを最初から開発するだけでなく、すでにある身体に新しい頭脳を組み合わせる方法も考えられます。
もちろん、Robiには身体の大きさや可動範囲、バッテリー、転倒などの制約があります。
しかし、すべてを一台で実現する必要はありません。
スマートフォンには情報処理を、小型ロボットには表情や身振りを、別の身体には移動を任せる。
そのように考えると、既存のロボットを活用することも、スマートロボットを実現する一つの方法になります。
おわりに
PDAからスマートフォンへの進化では、情報端末の性能が向上し、さまざまな機能が統合されたことで、新しいデバイスのカテゴリーが生まれました。
今回のロボットの進化では、AIによる頭脳化が大きな役割を果たすと考えています。
会話し、状況を理解し、判断するAIが、既存のロボットの身体と組み合わさることで、これまでとは違う存在が生まれる可能性があります。
そして、その存在は人間型のロボットに限定されません。
スマートフォン、Apple Watch、ぬいぐるみ、小型ロボットなど、さまざまな形で現れることができます。
それぞれのデバイスで同じ人格や記憶を共有できれば、一つの存在が複数の姿に分身することも可能になるでしょう。
スマートロボットは、スマートフォンを置き換えるものではなく、スマートフォンを包含する、新しいコミュニケーションの仕組みなのかもしれません。
機械を使う時代から、機械と付き合う時代へ。
そして、一つの機械と付き合う時代から、複数の姿を持つ一つの存在と付き合う時代へ。
これが、ポストスマートフォンの世界で起こる変化ではないかと考えています。